初代Mac Proには、Xeon 5100シリーズ(Woodcrest。Dualコア)が搭載されています。これをDualプロセッサ構成なので、Quadコアです。
Xeon
5160 : 3GHz , FSB 1333MHz , TDP = 80W
Xeon 5150 : 2.66GHz , FSB 1333MHz , TDP = 65W
Xeon 5140 : 2.33GHz , FSB 1333MHz , TDP = 65W
今の時期に、Mac Proがリニューアルするとすれば、CPUについては、Xeon 5300シリーズ(Clovertown)しか選択肢はありません。
Xeon
5355 : 2.66GHz , FSB 1333MHz , TDP = 120W
Xeon 5345 : 2.33GHz , FSB 1333MHz , TDP = 80W
( Xeon 5335 : 2GHz : , FSB 1333MHz , TDP = 80W )
Xeon 5320 : 1.86GHz , FSB 1067MHz , TDP = 80W
Quadコアをデュアルプロセッサ構成で載せると、8コアと宣伝できます。宣伝文句としてはすごそうですが、性能向上となると、余り期待したら裏切られるかも(笑)。というのは、Clovertownは「真の意味でのQuadコア」ではないからです。
「真の意味でのQuadコア」のことを、以下「モノリシックなQuadコア」と呼んでゆきます。モノリシックなQuadCoreとは、ひとつのダイ(ダイとは、半導体一個のこと)上に、4つのコアを集積したもの、かつ、4つのコアそれぞれのFSB(フロントサイドバス。CPUとメモリコントローラとを接続するもの)が独立した構造をしています。
つまり、一個の半導体のなかに4つコアがあり、それぞれのコアに対して1本づづ、計4本のFSBがあり、4つのFSB間は独立しているといったかんじ。
ところが、Clovertownはモノリシックではなく、デュアルコア・ダイを2個、ひとつのパッケージに載せたものです。簡単に言うと、下駄を履かせて、下駄の上に2個のDualコア(Woodcrest相当)を載せたもの。
Xeon5100 WoodcrestとXeon 5300 Clovertownの違い Mac Proは、Dual CPUなので、ほんとはi5000メモリコントローラに2つのCPU(Xeon)が接続されますが、イラストでは簡略化して1CPUしか記載してありません。 |
Xeon
5300 Clovertownでは、2個のデュアルコア・ダイ間でFSB(フロントサイドバス。システムバスとも言う。青矢印の箇所)を共用するにも関わらず、i5000メモリコントローラ−Xeon間のFSBは向上していないので、そこがボトルネックとなり、期待よりもパフォーマンスが落ちる要因となります。
このように、下駄をはかせるやりかたはマルチチップパッケージと呼ばれており、Pentium D(Presler)でも同様の技術が使われているそうです。Pentium Dは、Macには関係ないけど。
いわば、暫定的なQuadコアといえますが、一方で利点もあり、例えば、ロジックボードのチップセットは、Woodcrestと同じIntel 5000シリーズでよい、という点が挙げられます(Mac Proのチップセットは5000X)。また、Woodcrestのソケットと形状が同一であることもあいまって、Clovertownを採用する限りにおいては初代Mac Proのロジックボードをそのまま使用できる、という利点があります。
逆にいうと、Clovertown搭載Mac Proではロジックボード変更はないので、内部/外部インターフェースとも、初代Mac Proと同じまま、と予想できてしまいますね。それはそれでつまらない気も...。
じゃあ早く、Clovertown搭載の8コア Mac Proをリリースすればいいじゃない、ともなりますが、なかなか単純にはいかない事情があるのです。早い話が、Woodcrest搭載の4 Core Mac Proを、Clovertown採用8Core Mac Proにしたとしても、必ずしもパフォーマンスが向上するとは限らないのです(苦笑)。
この実例を示しているともとれる記事[ アップル非公認「8コア Mac Pro」--CNET Labsでさっそくベンチマーク ]が掲載されています。
一つ目。FBS共用の点(前述)に関しては、
Clovertownはモノリシックでない以上、FSB共用の件はどうしようもありません。一般用途ならば、問題は顕在化には至らないのかもしれませんが、DTVのように大容量のデータを流し続ける用途の場合には問題になるかも。
根本的には、2007年半ば以降のモノリシックQuadコアCPUの登場を待つしかありません。
二つ目。ソフトウェア側の問題。
メニーコア化(コアの数を増やすこと)は、並列処理の能力が高めよう(作業を分業しよう)、というアプローチ。工場のベルトコンベアの本数を増やす、みたいな考えです。
一方、一昔前のクロック周波数競争は、直列処理の向上(ベルトコンベアの速度を上げることで、ひとつの作業を早く仕上げよう)でしたので、クロック周波数が向上すれば、ソフトウェア側が特に何もしなくとも、それなりにパフォーマンスは向上しました。ところが、並列処理でパフォーマンスが上がるか上がらないかは、「いかにうまく作業分担するか」(複数のベルトコンベアラインへの作業の割り振り方)、そこに掛かっています。
ソフトウェア側が、マルチスレッディングなどに最適化してあれば、メニーコア化の恩恵を受けることができますが、そうでなければあまり意味はない、ということです。
で、マルチスレッディング対応に関しては、Mac OS X 10.5 Repardを待たないといけないかもしれません。
三つ目。熱設計の問題。
DualコアのWoodcrestが、QuadコアのClovertownに変更したとしたら、単純に考えれば、発生熱量は2倍近いはず。最適化の余地はあるでしょうが、それでも、どちらも65nmプロセスで生産されたCPUですから。
TDP(熱設計電力)を比較してみましょう。
実際、初代Mac Pro 3GHzモデルで使っているXeon 5160(Woodcrestの3GHz)のTDPは80Wですが、
Clovertownの場合、2.33GHzモデル(Xeon E5345)や2GHzモデル(Xeon
E5335)ですら、TDP 80Wに達します。Clovertownの最上位、2.66GHzモデル(Xeon
X5355)のTDPは120Wに達します。3GHzモデルについては、発表されてません(今のところ??)。
となると、熱を取るかクロック周波数を取るか、また、両者のバランスをどうとるか、という悩ましい問題が生じます。一つ目、二つ目の問題点を見てきたとおり、Woodcrest搭載の4 Core Mac Proを、Clovertown採用8Core Mac Proに変更したとしても、必ずしもパフォーマンスが向上するとは限らない状況下、クロック周波数を落とすのは選択しにくい。でも廃熱が...。
根本的には、45nmプロセスが登場する2007年半ば以降なら、TDPは下がりますので、それまで待つしか...。
こうなると、これら三つの問題点をすべて解消できる見込み時期は、2007年夏〜秋モデルになってしまいます。そのときには、45nmプロセスで製造され(→TDPは下がる)、モノリシックな(→FSB競合なし)Quadコアが使用できるはずです。また、この場合、チップセットも変更しないといけないので、ロジックボードもモデルチェンジ。
...こうなると、フル・モデルチェンジですね。
でも、さすがに、昨年8月の初代Mac Pro登場から1年間モデルチェンジ無しっ、てのはないよねえ。営業上はどうしても2007年冬〜春モデルを出しておきたいところ。マイナーなモデルチェンジでもいいから。
ということで、Appleとしても、大いに悩んでいることでしょう。
この記事のURL: http://www.macdtv.com/Macunamatata/Articles/20070209/index.html