天下の朝日新聞の広告に、以下のような「ぶっとび書籍」広告を見かけましたので、バイオ研究者の日々のネタにしましょう。
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「遺伝子の傷」を治せば生活習慣病は克服できる
---ヒトの治癒力を向上させる「DNA核酸食」のすごい威力---
医療ジャーナリスト 某 著
医学博士 某 工学博士 某 共同監修
核酸とは、遺伝子の中核物質DNAを構成するもので、いわば遺伝子そのものといえます(注.うん、まあ、この表現だと許せますね)。遺伝子そのものである核酸を食べることによって(注.
ん?へ?食べる?)人間の身体が本来秘めている機能を全般的に高めてゆくことが可能になり(なんだ〜?)、傷ついた遺伝子を守ることができるわけです(おいおい!!)。自然治癒力を高め、病気や老化の予防の中心的な役割を果たしてくれるのが核酸であると言い換えることもできるでしょう。
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バイオに特に詳しい知識をお持ちでなくても、どこかうさんくさい(笑)ことはすぐにおわかりになりますよね。じゃあ、どこに問題があるのでしょうか。
そもそも、遺伝子とは、子孫の残すべき「設計図兼操作手順書」のようなもの。受精し、各臓器・組織に分化し、赤ちゃんが産まれ、こどもが成長し、そして死にゆく、そういったあらゆる段階でタイミング良く生命は成長してゆくのは、遺伝子(設計図兼操作手順書)の指示に基づいて個々の生命活動を確実に行うことを積み重ねていくから、です。そして、DNAは、「設計図兼操作手順書」に書き込んである「文字列」のようなものです。
例えば、ある成長段階でタイミング良く背骨ができ、身体が作られるためには、「はさみで切れ」「のりでくっつけろ」なんていくつもの指示がDNA塩基配列という文字列で記述してあるわけです。
DNA文字列が間違っていることもあります。これが、ここでいう遺伝子の傷ですね。ちなみに、原因は、先天性(親から間違った文字を引き継いだ)、後天性(放射線、化学物質など)の二つに分かれます。
もし、「はさみ」が「はなみ」に1文字誤植があっただけとしても、「はなみで切れ」といわれても何のことか判らない指示内容になってしまい、場合によっては、病気の原因となってしまうこともあります。(実際には、生体内では修復機構も存在してますので、疾患として発現するというのは非常にまれな例ではあります)。
結局、DNAというのは、文字列(並び順)が大切な訳であって、文字がたくさんあることが重要なのではありません。「はなみ」を「はさみ」に直すために「な」の文字をばらまいて(たくさん食べて(笑))「設計図兼操作手順書」の記述文書を修正できるわけがないでしょう!!。文字が多いことが重要なのではなく、「文字の並び」が重要なのです。
また、遺伝子修復系に働きかけるなら、遺伝子そのものよりも、修復酵素(タンパク質)を食べた方がよっぽど利くかもしれません。
いうまでもなく、食べた場合胃腸からの吸収の際には、DNAもタンパクもばらばらに分解されて吸収されます。だから、DNAを多く含む食品を摂取したからと言って、DNAの形ではなく分解された形、すなわち、所詮え「栄養」としてされるに過ぎません。(注。コンソメの主成分は、イノシン酸という核酸系栄養物です)。
結局のところ、宗教だったら何をいっても、必死に直したいという方の必死の思いを考えると、とやかく端から言う必要はありますまい。問題は、科学的っぽい文言で(ウソにもならない)ウソを付いてる、ということです。これで、もし高価な金銭を取っているとしたら、立派な詐欺、になりかねませんが、でもまあ、笑い飛ばすネタにしかなっていないのが、もののあはれ、ですね。
追伸)こんなことを書くと、検索エンジンに「核酸食」といったキーワードで、Mac.naMatataがひっかかるようになるのでしょうね(笑)。