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2003.07.05 新ビデオフォーマット、HDV規格、発表

キヤノン社、シャープ社、ソニー社、日本ビクター社の4社が、HDV規格の基本仕様を策定した、と共同発表しました。

これについて簡単に解説します(でも、今回も長文になってしまいました、すいません)。

 ● これまでのDVテープ

ご存じのとおり、家庭用デジタルビデオカメラ(いわゆるDVカメラ)では、MiniDV規格のテープ(これもご存じですね)のほか、標準DVテープ(一部のDVデッキで採用されてます)などがあります。MiniDVテープには、標準モードで最大60〜80分、LPモードで90〜120分が録画可能です。

これまでDVテープには、DV方式で録画記録されてきました。DV方式(DV-NTSC)は、一般に、画面サイズ720×480(いわゆるSDサイズ)、29.97fps(フレーム/秒)、4:1:1サンプリング、JPEG圧縮とほぼ同様の仕組みによるフレーム内圧縮、記録速度は25Mbps、といった特徴を持ちます。(詳しくは、MacDTV研究室DV Codecの仕組みなどをご覧下さい。なお、DVの規格上は、これら一般的な設定の他高圧縮モードなどのオプションもありましたが、上記以外の設定を使用したDVカメラは発売されてきませんでした)。

DV方式は、従来のアナログビデオカメラに比較して高画質、デジタルなのでパソコンとの親和性が高い、といった特徴もあいまって、1995年のDVカメラ発売以来急激に普及しました。
テープが小さいのでカメラ自体の小型・軽量化も進んだことでコンシューマにも受け入れられてますし、一方の高画質という特性を活かして、ハイアマチュア〜一部の業務用途にまで受け入れられています。

 ● HDVが狙うターゲット

ともかく登場以来、DVは、SD(アスペクト比4:3の「普通のテレビ」)をターゲットとしてきてました。ところが、(なかなか火がつかないハイビジョンはともかくとして)今年終わりから始まる「地上波デジタル放送」により、HDテレビ(アスペクト比16:9の「ワイドテレビ」)の普及が見込まれます。そうなったときに、HDテレビで、現行のDVカメラで再生したSD画像を再生することを考えると、かなり哀しいものがありますよね。
ということで、今年3月に日本ビクター社から発売されたGR-HD1では、現行のDVテープを使ってHDが録画できるようになっています(画質はいまひとつですが...(笑))。今回のHDV規格は、これがベースになっています。

 ● HDV規格のキモ -- どうやって圧縮する?? --

画面サイズ(解像度)でみますと、1280×720の720/60p、720/30p、720/50p、720/25pと、1440×1080の1080/60i、1080/50iについて規定されています。

60pというのは、プログレッシブ方式で一秒間に60回、画を書き直す、というやりかた。
60iというのは、というのは、インターレース方式(水平走査線を1本ずつ飛ばすやりかた)で、毎秒30フレーム(=60フィールド)画を書き直す、という再生表示をします。

720/60pのデータ量は、非圧縮状態の時170MB/s近くの大容量になります。さて、これをどうやって、従来と同じDVテープに記録するのか、どうやって圧縮するのか。この点に、HDV規格のポイントがあります。

まず、現行DV方式を見てゆきましょう。
もしDVが非圧縮(720×480、YUV=4:4:4)だったとしたら、480/60iなので約31MB/sのはずです。
DV方式は、YUV=4:1:1へと間引きサンプリングすることで非圧縮の半分にし(これで15.5MB/sになった)、さらにDV Codecで圧縮することで約1/5圧縮すると、これで3.1MB/sになります。1バイトは8ビットなので、3.1MB/s=約25Mbpsとなり、DVの転送速度と相成ります。(詳しくはMacDTV研究室DV Codecの仕組みに解説しています)。結局、「間引きサンプリング」+「DV圧縮」により、「非圧縮」の状態の約1/10にしているわけですね。
ここで、DV圧縮は、フレーム内圧縮(空間型圧縮)、すなわち、デジカメのJPEGなどと同様に「そのフレーム」内だけで圧縮してしまい、「その前後のフレーム」には影響を与えない、という特徴があることに注意してください。この特徴により「DTV編集がやりやすい」というメリットが生まれるのです。

さて、おなじやりかたを720/60p(非圧縮状態の時170MB/s近く)に当てはめていても、17MB/sにしかならず、これでは使い物になりません。そこで、HDVでは、MPEG2で圧縮することになりました。MPEGではフレーム内+フレーム間圧縮(空間圧縮+時間圧縮)を採用しているので、圧縮率がかせげるのですね。フレーム間圧縮(時間圧縮)とは、前後のフレームとの「差」だけを記録することでデータ量を削減しよう、という仕組みです。

HDVでは、1280×720の場合約19Mbps、1440×1080の場合約25Mbpsと規定されています。

では、SD DVの25MbpsとHD-14 HDVの25Mbpsではどちらが高画質か、という点については、実際のところ現物を見ないことにはなんともいえません。

唯一発売されているGR-HD1だけみると、「これじゃぁなあ」という印象ですが。

ここでは、単純にデータ量だけの計算をしてみます。
HDVがサポートする1080/60iのサイズは1440×1080*)ですので、720×480の面積の4.5倍です。つまり、面積あたりのデータ量は、5.5Mbps(25Mbps÷4.5)の「DVD-Video用MPEG-2ビデオ(720×480)」と同じにくらいに相当する計算になります。この画質は、そうですねえ、iDVDの90分モードの転送レートと同じくらい、といえば、想像がつきますでしょうか(笑)。(なお、iDVDの60分モードは7.8Mbps程度。これよりも悪い訳です)。
画質は、単純にデータ量だけでは決まりませんが、少なくとも、スペックを見る限りデータ量としてはこの程度のビデオフォーマットだ、とはいえそうです。

*) 2003.07.16追記 MacDTV.forum(掲示板&メーリングリスト)でご指摘の通り、ふつう、1080/60iというと、1920×1080ですよねえ。つまり、HDVの1080iは、「ふつうの1080i」よりも水平解像度を下げてデータ量を3/4に減らしている規格、ということになりますね。

 ● HDV規格、ほんとのところ...

結局ですね、HDVは「高精細(高解像度)のビデオフォーマット」ではあるが、圧縮率からみると、決して「高画質のビデオフォーマット」とはいえない、ということがスペックからわかります。

また、高圧縮するためにMPEG-2を採用したことで、一方で、従来のDV編集の自由度は完全に失われてしまいます。現時点で、Macに限らず、現時点でMPEG-2を(DV並に)自在に編集できるDTVソフト・システムは存在していません。せいぜい、カット編集が関の山です。

IフレームのみのMPEG-2(=時間圧縮を採用していない)はあります。

こうしてみると、HDVという規格は、決して、ハイエンドアマチュア〜一部の業務ユーザが期待しているような「高画質」で「編集性に富む」ビデオフォーマットではありません。そもそも、撮影時に、「数Mbpsの720×480MPEG-2ビデオ」相当のデータ量でしか撮れないなんて、お話しになってませんです。

【HDV規格の主な特長】の4番目に「特殊再生の考慮」(サーチ時やスロー再生など)とわざわざ記載されていることからみても、HDVは(ハイエンドアマチュア〜一部の業務ユーザ向けではなく)「コンシューマをターゲットにした規格」といえそうです。

じゃあ、HD記録が出来るハイエンドアマチュア向けビデオフォーマットは、というと、どうも今回のHDVとは別に本命がいそうな予感がします。ウェーブレットやJPEG2000といったCodecを使用し、編集性を重視してフレーム内圧縮のみのフォーマット。PantherのPixeletとのようなもの。こんな予感・期待が、私にはあるのですが、果たして。

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